Red Frasco × Google Cloud 導入事例

成長フェーズの
プロダクトを、
データ起点で支える
Google Cloudによる
BI基盤構築の取り組み

プロダクトを継続的に成長させていくためには、UIや機能の刷新だけでなく、「何をもって改善とするか」の判断軸を支えるデータ基盤の整備が欠かせません。
不動産ポータルサイト『いい部屋ネット』は、全面リニューアルを機にデータを起点とした改善サイクルをプロダクトの中核に据えることを選びました。その実現に向けて構築されたのが、GoogleCloudを活用したBI基盤です。
本記事では、プロダクトリニューアルの過程で、なぜBI基盤の構築が重要なテーマとなったのか、そしてどのような考えのもとで設計・運用が進められてきたのかを、Red Frascoのデータエンジニア・杉山隆が振り返ります。

杉山隆のプロフィール写真

杉山 隆

Takashi Sugiyama

Data Engineer

大学卒業後、大手インターネット企業でバックエンドエンジニアとしてキャリアをスタート。その後、事業会社・受託会社双方でデータ系職種を経験し、2021年にRed Frascoへ参画。現在はデータ/MLエンジニアとして、Google Cloudを活用したデータ分析基盤の設計・開発から運用保守、ならびに同基盤を用いたレコメンド機能の開発を担当。

成長フェーズにおいて、データを共通の判断軸として揃える必要があった

 Red Frascoにとって『いい部屋ネット』は、創業直後から取り組んできた重要なプロジェクトです。2020年には、大東建託パートナーズ様とともに、プロダクトの全面的なリニューアルに着手しました。

 『いい部屋ネット』は、全国の膨大な物件情報を扱い、多様なユーザーに利用される不動産情報サービスです。プロダクトの価値をさらに高めていくためには、UI改善や機能追加にとどまらず、データを根拠とした継続的な改善が不可欠でした。そこで両社は、プロダクトを中長期的に成長させていくため、まず現状の課題を整理することから取り組みを始めました。その中で、共通認識として浮かび上がってきたのが、データ活用のあり方でした。

 『いい部屋ネット』に限らず、プロダクトを継続的に改善していくためには、データを判断基準としてPDCAを回し続けることが欠かせません。そうでなければ、施策は個人の経験や感覚に依存し、再現性を持たないものになってしまいます。

 特にRed Frascoでは、システム開発、マーケティング、データ分析の各チームが連携することで価値を生み出す点に強みがあります。その強みを最大化するためには、立場や役割が異なっても、同じ情報をもとに議論し、判断できる状態を作ることが重要でした。

 当時から経営としてはデータを重視した意思決定を行っていましたが、現場レベルでは、共通の判断軸となるデータが十分に共有されていませんでした。その結果、部門をまたいだ意思決定や改善サイクルを、必ずしもスムーズに回せていないという課題がありました。

 このような状況では、改善の方向性をすり合わせるたびに前提確認が必要となり、意思決定のスピードや精度に影響が出てしまいます。プロダクトの規模が拡大し、関わる人やデータ量が増えていくフェーズにおいては、「誰もが同じデータを、同じ指標で見られる環境」の重要性は一層高まっていました。

 そこで両社は、プロダクトをともに育てていく立場として、現場レベルでデータに基づく意思決定を可能にするための土台として、データを一元的に集約・可視化するBI基盤の構築に共同で取り組むことを決断しました。

少人数体制でも“使い続けられる”ことを最優先した結果、Google Cloudを選択

 BI基盤の構築にあたり、Red Frascoと大東建託パートナーズ様が重視したのは、短期間で構築できるかどうか以上に、継続的に運用・拡張していけるかという点でした。プロダクト改善を支える基盤として、長期的に使い続けられることが何よりも重要だったからです。

 当時の体制は決して潤沢ではなく、BI基盤の設計から構築、運用までを少人数で担う必要がありました。その中で求められたのは、インフラ管理の負担を極力抑えながら、データ量や利用範囲の拡大にも柔軟に対応できるクラウド基盤でした。

「複数の選択肢を比較検討した結果、最終的に重視したのは、“運用を前提にしたときの現実解”でした」

 そう語るのが、BI基盤構築を主導した杉山です。

 Google Cloudを選択した最大の理由は、フルマネージドサービスを中心とした設計思想にありました。サーバー管理やパッチ適用を前提とせず、分析やデータ活用といった本来注力すべき業務に集中できる点は、少人数体制での運用において大きな優位性となります。

 また、トラフィックやデータ量の増減に応じて自動的にスケールする仕組みが標準で備わっており、将来的な成長を見据えた設計が容易である点も評価されました。

 「プロダクトの成長に伴って、扱うデータ量や用途は必ず広がっていきます。その変化を前提に考えると、最初からスケーラビリティを意識せずに使える点は重要でした」

 データ基盤の中核として採用したBigQueryの存在も判断を後押ししました。BigQueryは、大規模データの高速分析に適したサーバーレスのデータウェアハウスであり、ストレージとクエリが分離された従量課金モデルを採用しています。

 「全国規模の物件データやユーザー行動データを扱う『いい部屋ネット』では、データ量の増加は避けられません。BigQueryは、必要なときに必要な分だけコストが発生するため、初期段階から無理なく導入でき、将来の拡張に対する不安も小さかったですね」

 さらに、機密性の高いデータを扱う上では、セキュリティと信頼性も重要な判断基準でした。Google Cloudは、Google自身のサービスを支える基盤として利用されており、高い可用性とセキュリティ水準が担保されています。

 「データ活用を進めるほど、扱う情報の機密性や責任は高まります。提供元がGoogleであるという点は、技術面だけでなく、運用やガバナンスの観点でも安心材料になりました」

 こうした理由から、Google Cloudは単なる「使いやすいクラウド」ではなく、データ起点の意思決定を組織に根付かせるための基盤として最適な選択肢であると判断されました。その判断を具体的な設計と構築に落とし込んだのが、杉山だったのです。

スモールステップで構築し、成長に合わせて進化できる基盤を作る

 BI基盤の構築にあたり、杉山が最初に採ったアプローチは、完成形を最初から目指すのではなく、スモールステップで構築し、使われ方に合わせて進化させていくというものでした。

 「数週間から数カ月かけて一気に完成度の高いものを作ろうとすると、想定外の課題が出た際に軌道修正が難しくなります。一方、短期的な目標を設定し、できることから積み上げていけば、途中で問題が起きても柔軟に方向転換できます。野球で言えば、一発のホームランを狙うのではなく、何度も打席に立って着実に得点を重ねていくイメージですね。これは、“できること(Can)”を少しずつ増やしながら価値を高めていく、Red Frascoの企業姿勢とも共通しています」

 こうした進め方を実現できた背景には、Google Cloudの柔軽なサービス構成とマネージドなアーキテクチャがあります。初期フェーズでは、BigQueryを中心に、必要最小限のデータを集約・可視化する分析基盤を構築しました。データの収集・加工にはCloud Composerを用い、将来的なデータ増加や連携先の拡張を見据えたパイプライン設計を採用しています。この段階では、扱うデータやダッシュボードの機能をあえて限定し、プロジェクトチームが定期的にKPIを確認し、議論できる状態を目標としました。

 「Google Cloudは、後からデータを追加したり、処理を高度化したりする際にも、既存構成を大きく変える必要がありません。スモールスタートと段階的な拡張を前提とした設計と非常に相性が良いと感じました」

 最低限の集約・可視化ができる基盤を整えた後、次に取り組んだのが「活用」に向けた環境づくりです。Web広告、SEO、CRMなどのデータを段階的に統合し、業務に直結する指標を確認できるダッシュボードを整備していきました。この際も、一度にすべてを可視化するのではなく、利用状況や改善効果を確認しながら、少しずつ機能を追加していく進め方を採っています。また、KPIが一定の閾値を下回った際に通知を行うなど、「見るだけで終わらせない」ための運用設計も並行して行いました。こうした短い改善サイクルを回せたのは、インフラ管理を意識せずに済むGoogle Cloudの特性によるものです。

 「早い時には、1~2日単位で構成や処理を見直していました。Google Cloudのサービスを使わずに、自前でシステムを運用していたとしたら、ここまでのスピードで改善を重ねることは難しかったと思います」

 重要なのは、最初から高度な構成を採用したのではなく、必要性が明確になった段階で、GCPのサービスを段階的に追加していった点です。

 「Google Cloudは、同一プラットフォーム上で、分析から機械学習、アプリケーション実行までをシームレスにつなげられます。これは特定の企業やプロダクトに限らず、多くの組織で再現可能な進め方だと感じています」

技術基盤と組織運営を両輪で回し、データ活用を定着させる

 BI基盤の構築後に重視したのは、データを「見る」だけで終わらせず、日々の意思決定に自然に組み込むことでした。そのため、技術面の運用とあわせて、組織運営の面からもデータ活用を支える仕組みづくりを進めました。具体的には、『いい部屋ネット』をはじめとする各プロジェクトにおいて、共通のデータを前提に議論する定例の場を設け、プロジェクト運営の中にデータ活用を組み込んでいきました。

 「プロジェクトに関わる各組織のメンバーが共通のKPIやダッシュボードを参照しながら、課題の整理や施策の検討、広告効果の評価などを行っています。会議でも同じダッシュボードを前提に議論することで、数値に基づいた意思決定がよりスムーズにできるようになりました」

 こうした取り組みは、経営層からも明確にメッセージとして発信されており、データを共通言語とする文化は比較的スムーズに定着していきました。その結果、部門を越えた連携にも変化が生まれました。

 「マーケターが課題として挙げた指標に対して、エンジニアがUIや機能改善の観点からアイデアを出すなど、立場を越えた会話が日常的に行われるようになりました。データを共有することで、改善に向けた議論の質が明らかに変わったと感じています」

 技術基盤の整備と、組織運営における場づくり。この二つを両輪で回すことにより、『いい部屋ネット』のチーム内では領域をまたいだ相互連携が一層強化され、プロダクトのリニューアルは成功を収めることができました。

 一定の成果が見え始めた一方で、共通データを積極的に活用する動きが社内全体へと広がり、各プロジェクトチームで同様の効果が見られるようになりましたが、それに伴い運用面での課題も顕在化していきます。複数のプロジェクトやお客様の組織ごとに扱うデータが増え、閲覧権限の管理や運用ルールは次第に複雑化していきました。

「データの価値が高まるほど、適切なアクセス管理は欠かせません。管理工数が増える局面もありましたが、Google CloudのIAMや、社内で利用していたGoogle Workspaceとの高い親和性によって、運用ルールを整理しながら対応することができました」

 Google Cloudのマネージドサービスを活用していたことで、インフラ運用に追われることなく、運用ルールやガバナンスの改善といった“本質的な運用”に時間を割けた点も、継続利用を支える要因となりました。

「システムが成長しても、運用負荷が指数関数的に増えない。これは、データ活用を長期的に続けていく上で非常に重要でした」

 こうして、技術基盤の安定運用と、組織としてのデータ活用の場づくりを両輪で回すことで、BI基盤は単なる分析ツールではなく、プロジェクト運営の前提となるインフラとして定着していきました。

データドリブンな改善サイクルが、継続的な成果創出を支える

 BI基盤の構築と、それを前提とした運用の定着により、『いい部屋ネット』ではプロダクト改善のサイクルが大きく変化しました。その成果は、数値としても明確に表れており、プロダクトの全面リニューアル以降、問い合わせ件数は5年間で最大1,760%増加しました。

「これらの成果は、特定の施策や個人の工夫によるものではありません。エンジニアリング、マーケティング、データ分析といった各領域が、共通のデータをもとにPDCAを回し続けてきた結果だと考えています」

 杉山は、BI基盤はあくまで成果を生み出すための“土台”にすぎないと語ります。

「BI基盤があったからこそ、施策の効果を素早く検証し、改善に反映することができました。すべての要因ではありませんが、プロダクト改善のスピードと精度を高める上で、重要な役割を果たしたことは間違いありません」

 この取り組みを通じて見えてきたのは、特定のプロダクトや企業に依存しない、再現性の高い示唆です。

 最初から完成形を目指さずスモールステップで構築・運用を進めること、そしてフルマネージドなGoogle Cloudのサービスを活用し、インフラ運用ではなく「データをどう使うか」に集中できる環境を整えること。この2点が、継続的な成果創出を支えていました。

「こうした進め方により、少人数体制であっても、データ活用を組織カルチャーとして定着させ、改善のPDCAを高速で回すことが可能になります。このアプローチは、『いい部屋ネット』に限らず、多くのプロダクトや組織においても再現可能なものだと言えるでしょう。今後は、『いい部屋ネット』で培ったデータ活用のノウハウを、他のプロジェクトへと横展開するとともに、Google Cloudのサービスをさらに活用し、分析・予測・最適化の高度化にも取り組んでいく予定です。1つのプロダクト改善にとどまらず、より広いビジネス価値を生み出す基盤へと進化させていきたいと考えています」

 BI基盤構築プロジェクトの開始以降、サイトの集客力は大きく向上し、組織としてのデータ活用文化も着実に強化されてきました。そうした変化は、プロジェクトを主導してきた杉山自身にも影響を与えています。

「私自身も、BI基盤と同じように、あまり表に出るタイプではありませんが、縁の下の力持ちとして、組織全体の価値を支える基盤を、これからも一層強固にしていきたいですね」

 データを支える基盤と、それを支える人。

 その両方が静かに機能することで、『いい部屋ネット』の成長を支えるデータ基盤は今後も進化を続けていきます。

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